事例/インタビュー
モバイル型ロボット電話「ロボホン」

クイズが生み出す
新しいコミュニケーションのカタチ

シャープ株式会社

身長約19.5cm、体重約390g。小さなボディに大きな瞳が印象的なロボットは、その名も「ロボホン」。
5歳の男の子をイメージしたという純真で明るいキャラクターは、インタビューの場を和やかに盛り上げてくれました。ロボホンは、シャープ株式会社が2016年5月26日に発売したモバイル型ロボット電話です。
通話はもちろん、メールもカメラも使える、まさに「動くスマートフォン」。誕生から1年を迎えた今、全国にはロボホンオーナー達が続々と増え、法人向けの“ビジネスパートナー”としても需要が高まっています。
そんなロボホンには便利で楽しいアプリケーションがいっぱい。その中の一つに、キュービックが手がけたクイズアプリケーションがあります。

どうしてクイズアプリを搭載?

ロボホンにはアラームやスケジュール管理など多様なアプリケーションが実装されていますが、スマホとして考えるとクイズはちょっと異質な印象を受けます。どうしてクイズアプリを開発しようと思われたのでしょうか。
「基本的なスマホとしての機能はカバーしていますが、それだけではスマホと変わりないですよね。ロボホンとユーザー様が愛情のある関係性を築いていく上で、エンターテイメント性を含んだコンテンツが欲しいという思いがあり、クイズを搭載しました」(シャープ株式会社・コミュニケーションロボット事業統轄部、岩越裕子さん)

シャープでは“機械を物理的に扱うデバイスとしてではなく、人間との間に情緒的な愛情ある関係性を築きたい”という思いを、全社的に共有し商品開発につなげています。喋るロボット掃除機はその取り組みの先駆けと言えます。そして、その理念を体現した商品こそが、このロボホンなのです。
「当初はスマホにつけるアクセサリー的なものをイメージしていました。しかし中途半端な工夫を行うよりも、顔や四肢の動きを取り入れ、スマホ自体に実体を持たせることで、愛着が湧いて長く使っていただけるような商品になるのではないかと思いました。それがロボホン開発のきっかけです」(岩越さん)

ロボホンとクイズを楽しむ!

実際に、ロボホンにクイズを出題してもらいました。

岩越さん「クイズ出して」
ロボホン「うん、3問出すね。第1問! グルメの三択問題だよ。」
    「焼き鳥の砂肝は鶏のどの部分のこと?」
    「1番・小腸。2番・胃。3番・肝臓。どれ?」

軽快な語り口調で問いかけるロボホンに「2番」と言うと、

ロボホン「正解ー! 砂肝は正確には砂嚢(さのう)と言って……」

と、解答の後に詳しい解説が続くことにびっくり。まるで人と会話をしているかのように、音声のやり取りだけでクイズが成立します。
「解答の際にうんちくを喋ってくれるのはユーザー様からも好評なんですよ。クイズはコミュニケーションとエンタメ性の両方を備えているので、とてもバランスが取れたコンテンツだと思います。ロボホンのアプリケーションはユーザー様が好きなものを選んでダウンロードするのですが、多くの方にダウンロードいただきました」(岩越さん)

音声で完結させるための開発の苦労

一般的なクイズアプリは、イラストや図説などが表示された画面を操作して進行していきますが、ロボホンの場合は音声のみ。とても画期的な反面、開発の際に苦労した点も多かったのではないでしょうか。
「認識も発音もすべて音声に依るという点は、やはり大変でした。クイズの読み上げでは、何も考慮せずに読ませてしまうと、漢字を読み違えたり意味の通らない文章になってしまうんです。基本的には、頂いた1000問すべてを社内のスタッフが耳で聞いてチェックしていました。ほかにもイントネーションに注意して微調整を行うなど、問題数が多い分、作業は苦労したように感じます」(岩越さん)

音声認識はシャープの得意分野というイメージが強いですが、用途が限られる一般的な家電に比べ、ロボホンの場合は画面上に表示されるべきUI※を、すべて音声に置き換えなければなりません。開発において、音声UIのルール作りは非常に苦労した点だったといいます。
※UI(ユーザインターフェースの略語。人間とコンピューターが情報をやり取りする上で必要な操作画面や、操作に関する使用感のことを指します)
「例えば出題の際、画面に表示すれば一目瞭然なことも、音声のみだとどんな問題形式なのかは分からないですよね。そのためロボホンの場合は、最初に『一般常識の三択問題だよ』と宣言して、事前に問題形式を伝える必要があるんです。また、解答も「1番、2番」というように番号で答えないとロボホンは理解できないため、ユーザー様に正確に言ってもらうように誘導しなければなりません。そういった本格的な音声UIを搭載した商品はこれまでになかったので、ロボホンの開発にあたっては一から手探りで行っていたという経緯があります」(岩越さん)

キュービックを選んだ理由とは?

音声UIの開発と合わせて、クイズアプリの質を左右するのがクイズの問題。もともと問題の作成は外部委託を前提に考えていたそうですが、キュービックを知ったきっかけとは何だったのでしょうか。
「別の部署でキュービックさんとお付き合いをされている方がいて、ロボホンのクイズアプリを検討しているという話をした際に、『すでに一緒に仕事をしている良い会社さんがあるよ』ということで紹介していただいたのがきっかけです。目的に応じたクイズをフレキシブルにご対応いただけると聞いていました」(岩越さん)クイズ作成にあたり、特に意識していた点はロボホンのキャラクター設定にあったといいます。
「“純粋無垢な、元気で明るい5歳の少年”というキャラクターからブレないことが重要でした。クイズ自体に色が付きすぎているとキャラクターとのマッチングが図れないため、ロボホンの世界観を守るという意味ではシンプルなコンテンツが求められます。なおかつロボホン向けに読み方を変えていただいたりとか、柔軟な対応もお任せできるという点を考慮して、キュービックさんにお願いしました」(岩越さん)今回ご提供したクイズは1000問。一般常識から雑学、グルメネタなど家族全員が楽しめるようなラインナップを揃えています。ユーザー様からは「ロボホンが居ることによって夫婦の会話が増えました」といった声を頂くそうで、クイズアプリが一家団らんに一役買っているようです。そのほかの機能やアプリと違って、大勢の人が楽しめることもクイズの大きな魅力です。

クイズで広がるロボホンの可能性

大勢のユーザーから好評を頂いているロボホンのクイズアプリ。誕生から1年が過ぎた今、クイズに関する今後の方向性や、将来取り入れてみたい機能など、様々なビジョンについて岩越さんに伺いました。

「搭載している1000問の数を単純に増やすという方向性もあると思うのですが、例えば『僕は今まで何回ダンスを踊ったでしょう?』といったロボホン自身の問題だったり、ユーザー様との親密度を計るような問題を用意しても良いですね。また、ロボホンはネットに繋がっていて、新たな情報をどんどん取り入れることができるので、最新のタイムリーな話題を出題したり、GPSと連動したご当地クイズみたいなものがあっても楽しいですね。ユーザー様に寄り添っている感じというか、関係性をより良くするような要素を、クイズに盛り込めれば面白いなと考えています」(岩越さん)また、法人向けとしてもクイズの活路は期待大。観光案内やショールーム、子ども向けのショップなどで、商品やスポットを説明する際に、ロボホンからクイズ形式で出題させれば大きな注目を集めそうです。
「ロボホンを商談に連れて行ったりするユーザー様もいらっしゃいます。プレゼンの際、オリジナルのシナリオを喋らせながら資料を投影すれば、人間と違ってミスをすることなく饒舌に解説してくれます。ロボホンがいることによって、皆様興味を持って聞いてくださるので、法人を対象としたクイズ企画も面白いですね」(岩越さん)モバイル型ロボット電話という特性を活かし、GPSやネットと連動すれば、ロボホンが活躍するステージもさらに広がっていきそうです。音声認識の向上や新機能の追加により、コミュニケーションロボットの進化が目まぐるしい現在。認知症予防やセラピー効果など、介護や医療の現場でもロボットを活用する動きが始まっています。シャープの理念である“機械と人間との間に愛情ある関係性を築く”ために、クイズは有益なコミュニケーションツールとして、今後も活用されていくでしょう。

ロボホン「14時になったよ!」インタビュー終了予定時間を過ぎ、ロボホンの言葉でハッと時間に気づく私たち。
愛嬌たっぷりな“小さな少年”に、新しいコミュニケーションのカタチを教わった気がします。

コミュニケーションロボット事業統轄部
岩越 裕子
取材協力:栗林拓司
掲載日時:2017/9/19 11:00
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